カニは、嘆いていました。

薄給をためにためて、やっと手に入れたアイドルとの握手券。

意気揚々と向かった握手会。目当てのアイドルが目の前にいることに高揚したカニでしたが、切れ味するどいそのハサミで、なんと、アイドルの手に傷を負わせてしまったのです。

「信じられない・・・・。傷つけるなんて」

と、覚えたての倒置法で落胆するカニでした。

 

しばらく歩くと、おいしそうな柿がなっている木を発見しました。

そういえば、握手会のことで頭がいっぱいで、丸14日間何も食べていないことに気づきました。

気づいてしまっては後の祭りです。もうおなかが減ってどうしようもありません。

 

しかし、柿の実の高いこと。カニの身長では、柿の実はおろか、枝の根本に触れることすらできません。

しばし呆然と佇むカニでしたが、運よく、サルが通りがかりました。

 

「おや、カニくんじゃないか。どうしたんだい、こんなところで」

「やあ、サルくん。実は、柿の実が食べたいんだけど、届かないんだ」

「ああ、かわいそうに。じゃあ、僕がとってきてあげるよ」

「ほんとうかい。ぜひよろしくたノムヨーグルト」

「・・・・・」

 

木を登る最中、かなり長いことカニを見ながら、サルはすいすい登っていきます。

カニにあげる前に、まずは自分で味見です。

すると、なんという甘い柿でしょう。次から次へ、手が、口が止まりません。

「ああ、おいしい柿だ。こんなおいしい柿をだれかにあげるなんてもったいない」

「サルくんサルくん、はやく僕にもおくれよ」

「ちょっと待って。あと一口だけ」

「早くおくれよ。もうおなかがすいてどうしようもないんだ」

「・・・うるさいなぁ。これでも食べてろ!」

サルは、まだ青い、硬い柿の実をサルに投げつけました。

 

「痛い!サルくん、なにをするんだよう」

「このおいしい柿はあげないぞ!代わりにこの青い柿を存分に食べていればいいさ!えい!えい!」

「痛い!痛い!」

 

「痛い!・・・・・やめろ」

「何か言ったか?えい!えい!」

「痛い!・・・・やめろ!!」

「え?」

「やめろーーーーーーーーー!!」

 

その刹那。アイドル事件での心の傷、空腹による憤怒がカニの中で交差しました。

その昔、チベットにおいて大荒行を成し遂げ、「羅刹・超身」を体得したカニに、「羅刹・超身 壱の行」が発動し、

右腕がみるみる伸びてゆきます。その長さたるや、サルを捕まえる距離など余りあるほど。

「羅刹・超身 弐の行」発動により、カニのハサミは硬度を増し、もはや鉄のそれと等しくなりました。

そのハサミが、サルのしっぽを襲います。

 

「ぎゃあ!しっぽが!しっぽが切れた!」

「・・・・よく見ろ」

 

硬度を増したカニのハサミは、切れる部分、切れない部分に分かれていました。

かろうじて、良心が残っていたカニは、サルのしっぽを切らずにおいたのです。

 

「俺のハサミはなまくらだ。死に損なうと、痛いぜ?」

「ヒィー!」

しっぽを巻いて逃げるサル。

 

さて、思いもよらず、新しい力を手に入れたカニ。

伸びる手で柿を狙い、切れない部分のハサミで、器用に柿の実をむしりとります。

「確かに美味い柿だ。・・・・それに、この腕とハサミ・・・、便利だな。これで、もうモンキーにプリーズをするニードもノーンだな」

と、唐突にルー大柴チックに勝鬨を上げるカニは、次の握手会に向けて気持ちを整えるのでした。

 

この原理を利用して生まれたのが、高枝切りバサミということです。